使途不明金をめぐる争い④ (法的請求と考えられる問題⑶)
1 はじめに


遺産分割を始めようとすると、生前に多額の預金引き出しがなされている「使途不明金問題」が生じることがあります。
この問題につきましては、
●「使途不明金をめぐる争い② 法的請求を行なう上での<問題1> お金の引出行為者は誰か」
●「<問題2> お金の引出行為者が引出権限を有していたのか」(前半)
をご紹介させていただきました。
今回は「使途不明金問題」について、【<問題2>お金の引出行為者が引出権限を有していたのか」(後半)、つまり、個別に「引き出された金員の使途が正当かどうか」について、まずは代表的なお金の引き出し理由を挙げていきます。
なお、【「被相続人の生前に引き出された預貯金等をめぐる訴訟について」判例タイムズ1414号74頁】も参考にしております。
2 「個別的な引き出しについて権限を有していたか」「引き出した金員の使途」について
⑴ 被相続人名義の口座からのお金の引き出しについては、全面的に任されていた、個別のお金の引き出しについて頼まれていた、のどちらにせよ、被相続人から有効な引き出し権限を与えられていなければいけません。
そして、引き出し権限について、「私は、被相続人より、この口座からのお金の引き出しについて、こういった理由で頼まれた。」とお金を引き出した人から主張されることがあります。
⑵ こうした個別の預金の引き出しの理由としてあげられることが多いのは、
① 被相続人自身・被相続人の親族の生活費のため
(特に問題となるのは、被相続人が施設に入所しているが、同居の親族が親族達の生活費を下ろしていた場合、被相続人が親族である子を扶養している費用等)
② 家の改築費用、トイレ・風呂などのリフォーム、ソーラーパネルの設置など
③ 贈与資金(同居の親族へ車両を購入。子の配偶者や孫に対しての贈与もありえます。)
④ お世話になっている医師・施設への謝礼をするため
⑤ 葬儀費用(特に被相続人が亡くなる前に預貯金口座から多額の金員が引き出されているケース)
などです。
そこで、領収証などがあるものについてはそれを手がかりとしながら、社会的儀礼、慣習や相当な範囲内の支出かどうか、お金が引き出された客観的経緯、その他の事情も加味して、お金の引き出しが妥当かどうか、被相続人から個別的にお金の引き出しを頼まれていたかどうか(被相続人の意思が合理的に認められるかどうか)を判断していくことになります。
これら①から⑤の代表的なお金の引き出し理由について、別稿にて個別に詳細をご紹介させていただきます。
3 さいごに
「使途不明金問題」を相手に請求するにあたって多くの問題があり、一筋縄ではいきません。
被相続人の預貯金からどこにいったかわからない多額のお金の引き出しがあって疑問を持っているなど「使途不明金問題」について関心がおありの方は、相続に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。