使途不明金をめぐる争い③ (法的請求と考えられる問題⑵)

文責:弁護士 岡﨑伸哉

作成日:2024年12月29日

1 はじめに

 遺産分割を始めようとすると、生前に多額の預金引き出しがなされている「使途不明金問題」があります。

この問題につきましては、「使途不明金をめぐる争い①」「使途不明金をめぐる争い② 法的請求を行なう上での<問題1> お金の引出行為者は誰か」をご紹介させていただきました。

 

 今回は「使途不明金問題」について、法的請求を行なうにあたり、どのような問題があるのかについて、【<問題2> お金の引出行為者が引出権限を有していたのか】をご紹介したいと思います。

2 法的な請求をするにあたりどのような問題があるか。

 再掲になりますが、「使途不明金問題」について法律的な請求を選択して行なうにしても、次のような問題があります。

<問題1> お金の引出行為者は誰か

<問題2> お金の引出行為者が引出権限を有していたのか

<問題3> お金の引き出し行為によって、被相続人に損害または損失があるのか

 

 このうち、今回は、お金の引き出し行為を請求相手が行なったことが認められたとして、<問題2>「お金の引き出し権限の有無」について述べていきます(今回は、その前半部となります。)。

 なお、実務上よく参考となる【「被相続人の生前に引き出された預貯金等をめぐる訴訟について」判例タイムズ1414号74頁】も踏まえながら説明をさせていただきます。

3 <問題2>お金の引出行為者が引出権限を有していたのか(前半部)

⑴ 前提1

  お金の引き出しについて、被相続人から有効な引き出し権限を与えられていなければいけません。

  引き出し権限については、- ①包括的に財産管理を任されていた

              -   ②各引き出し個別的に委託されていた

と、お金を引き出した方から主張をされることが多いです。

 

⑵ 前提2

  財産管理や個別の引き出しについて被相続人から承諾されていたときに、被相続人の方の判断能力がほぼない状態(典型的には、非常に重い認知症があげられます。)であった場合には、その引き出し行為には正当事由がない限り、認められません。

 

⑶ ①包括的に財産管理を任されていたか

  相手方が通帳やATMカードを管理していたからといって、包括的に財産管理が任されているわけではありません。

  (預貯金を引き出した相手方が)「預貯金を引き出した目的につき合理的に説明し、それが根拠あるものと認められるかどうか、被相続人は当該引出行為を認識し、これを容認していたとみるべき事情があるか(被相続人の心身の状態、預貯金の管理状況につきどの程度報告されていたか等)などといった事情と、併せて考慮されなければならない」と考えられています(上記判例タイムズより引用)。

  預金を引き出した方については、包括的な金銭管理権限を被相続人より有効に与えられていること、そして、金銭管理の範囲が、生活費・医療費・介護費、税金などルーティーンとして支出する費用の支出についてしっかりと根拠を示すこと、加えてそれ以外の支出についても根拠のある支出であることを示すことが重要になってきます。

 

⑷ ②各引き出し個別的に委託されていたか

  この点については、別稿(後半部)にて、【引き出した金員の使途】とともにご紹介したいと考えております。

4 さいごに

 今回は、「使途不明金問題」を相手に請求するにあたって多くの問題があり、その問題の一部をご紹介させていただきました。

 被相続人の預貯金からどこにいったかわからない多額のお金の引き出しがあって疑問を持っているなど「使途不明金問題」について関心がおありの方は、相続に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。

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