遺産分割前の相続預金の払戻しについて
1 はじめに
身内の方が急にお亡くなりになることもあります。
そのとき、事前に用意していないときなど「ご葬儀の費用をどうしようか」と悩まれる相続人の方もいらっしゃると思います。
葬儀費用で立て替えるお金がない場合や、立て替えたとしても葬儀費用の負担について他の法定相続人が後で払ってくれないと気になるケースもあると思います。
拙稿・【葬儀費用・墓地埋葬費用の負担について】
そこで、今回は、『遺産分割前の相続預金の払戻し制度』についてご紹介をさせていただきます。
2 平成30年7月の民法等の改正により設けられた2つの預金払戻し制度
⑴ 家庭裁判所を利用して預金の払戻しをする手続き(家事事件手続法200条3項)
① 家庭裁判所に、遺産分割調停や遺産分割審判が申し立てられている場合であること
② 生活費の支弁等の事情により相続預金の仮払いの必要性が認められること、他の共同相続人の利益を害しない場合であること
③ 各相続人が、家庭裁判所に相続預金の仮取得の申立てをすること
↓
家庭裁判所が仮取得を認めた金額について、預金の払戻しが可能となります。
⑵家庭裁判所を利用しないで預金の払戻しを行なう手続き(民法第909条の2)
上記の家庭裁判所の判断を得る預金払戻し手続きは、家庭裁判所での遺産分割調停や審判が申し立てられていることが前提のため、葬儀費用を払う場合などでは使いにくいことも考えられます。
そこで、家庭裁判所を利用しない形で預金を払い戻すことも可能になりました。
各共同相続人は、相続預貯金のうち、口座ごと(同一の金融機関全支店では、合計額150万円が上限:法務省令による。)に、以下の計算式で導き出される金額について、各相続人は金融機関から単独で払戻しを受けることが可能となります。
【単独で払戻しが出来る額】=<相続開始の時の預貯金額:各金融機関基準>× 1/3 × 払戻しをする相続人の法定相続分
※ 払い戻した場合、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなされます。
3 家庭裁判所を利用しないで預金の払戻しを行なう手続きの例
A金融機関に1500万円
B金融機関に750万円
の相続財産がある場合
払戻しする人の法定相続分:1/2
↓
● A金融機関:1500万円×1/3×1/2=250万円となりますが、上限150万円なので、150万円までは払戻しが可能
● B金融機関:750万円×1/3×1/2=125万円まで払戻しが可能
となります。
4 さいごに
今回は、平成30年に民法等で新設された「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」について述べさせていただきました。
「葬儀費用」を被相続人の生前に確保しておけばよかったということはよくある話です。
そういった場合でも、まずは相続に詳しい弁護士にご相談されることをお勧め致します。