「遺留分侵害額請求権」の時効について(認知症、未成年者の場合)

文責:弁護士 岡﨑伸哉

作成日:2024年09月30日

1 はじめに

 今回は「遺留分侵害額請求」(民法改正前は「遺留分減殺請求」でした。)について、既にご紹介をした「遺留分の時効」についてより具体的に紹介をさせていただきます。

 「遺留分侵害額請求権」は、遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈(遺言により財産を無償で譲ること)があったことを知った時から1年で、時効により消滅します(民法1048条)。

 葬儀や四十九日、受贈者又は受遺者の方から相続財産について何か言ってくるだろうと相手の出方を待っているうちに時効となってしまうことよくありますので注意が必要です。

2 「遺留分の時効」(1年)について

 遺留分侵害額請求の行使をする上の期間制限については、

「遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。」(民法第1048条)

とされています。

 

<1年間の時効の起算点>(民法1048条の前半部分は、消滅時効と解釈されています。)

 1年間の時効の起算点については、「遺留分侵害額請求」をする人が、

  ① 「相続の開始を知ること」

    に加え、

  ② 「遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時」

  → 贈与又は遺贈があったことだけでなく、その贈与等が遺留分を侵害するものであることまでを知ることまでが必要となります。      

 なお、「遺留分侵害額請求」について、相続財産の額が不明である、そして、遺留分侵害額を計算できない場合には、「その贈与等が遺留分を侵害するものであることまでを知ること」についてまで知ったことといえないので、1年間の時効は進行しないという見解もあります。

 しかしながら、遺留分権利者が、相続財産について、

 ・ 何らかの割合額(遺留分)があることを認識していた

 ・ その遺留分について、贈与等により、なんらかの範囲で損なわれるという認識を持っていたという曖昧な認識の程度であっても「その贈与等が遺留分を侵害するものであることまでを知ること」にあたるとする裁判例もあるので注意が必要です(東京高裁昭和52年4月28日判決)。

3 「遺留分の除斥期間」(10年)について

<10年間の除斥期間の起算点>(民法1048条の後半部分は、除斥期間と解釈されています。)

 除斥期間については、法律上定められた権利行使の期間制限のことで、この期間を過ぎると権利が消滅します。

 時効の中断・停止がなく、時効のように当事者による時効の援用がなくとも相続開始(死亡の時)のときから10年が経過すると、「遺留分侵害額請求権」は当然に消滅することになります。

4 相続人が認知症の場合、時効は進行するのか

「2 「遺留分の時効」(1年)について」に解説をしましたが、相続開始及び遺留分侵害額請求をできる贈与等の存在を知った時が時効の起算となります。

 

 では、遺留分権利者が認知症の場合、「遺留分の時効」は進行するのでしょうか。

 認知症といっても、その判断能力の程度により、時効が進行するかどうか判断されることになります。

 → 成年被後見人等重度の認知症であれば、上記の贈与等の存在を認知することが難しいため、時効は進行しないと考えられています。

 → 軽度の認知症であれば、上記の贈与等の存在を認知することは可能であるため、時効は進行するといえます。

5 相続人が未成年者の場合、時効は進行するのか

 乳幼児、低年齢の未成年者については、相続開始及び遺留分侵害額請求をできる贈与等の存在を認識することが難しく、「遺留分の時効」は進行しません。

 では、高校生などある程度、事実関係を把握できる年齢の未成年の場合はどうでしょうか。
 高校生であっても未成年ということで、「遺留分侵害額請求」の行使をする際には不完全な意思表示とも考えられ、つまり、上記の贈与等についても「知った」とはいえないとされています。

 そのため、法定代理人(父母等)がいる場合については、法定代理人の「認識」によって、贈与等の存在の認識の有無について判断されます。

6 さいごに

 近年、遺言書を作成される方も多くなっており、遺言書によって不公平を感じる方から遺留分侵害額請求のご相談されるケースも多くなっております。

 特に、1年の時効については、あっという間に経過をすることもあり注意が必要です。

 遺留分について関心がおありの方は、相続に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。

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