使途不明金をめぐる争い② (法的請求と考えられる問題⑴)
1 はじめに
遺産分割を始めようとすると、生前に多額の預金引き出しがなされていることが判明することはしばしば見かけられるところです。
いわゆる「使途不明金問題」について、まずどういった調査から取りかかるかについて、「使途不明金をめぐる争い①」でご紹介をさせていただきました。
そこで、今回は「使途不明金問題」について、法的請求を行なうにあたりどのような問題があるのか、シリーズでご紹介したいと思います。
2 「使途不明金」についてどのような請求がありえるかについて
「使途不明金」について請求する際の法律的に考えられる請求としては、次の3つが考えられます。
① 不法行為に基づく損害賠償請求
② 不当利得返還請求
③ 預託金返還請求
このうち、よく見かける法的構成としては、①と②です。
3 法的な請求をするにあたりどのような問題があるかについて
①から③の法律的な請求を選択して行なうにしても、次のような問題があります。
<問題1> お金の引出行為者は誰か
<問題2> お金の引出行為者が引出権限を有していたのか
<問題3> お金の引き出し行為によって、被相続人に損害または損失があるのか
このうち、今回は<問題1>についての概略を述べていきます。
なお、実務上よく参考となる【「被相続人の生前に引き出された預貯金等をめぐる訴訟について」判例タイムズ1414号74頁】も踏まえながら説明をさせていただきます。
<問題1>お金の引出行為者は誰か
「使途不明金」について法的な請求を行なう際、お金の引き出し行為を請求相手が行なったことを裏付けなければなりません。これがまず第一のハードルになります。
請求相手の対応は、概ね以下の4パターンが実務的に多く見受けられます。
・ お金の引き出し行為を完全に否定パターン【完全否認型】
・ 一部だけ認め、その他は否認するパターン【一部否認型】
・ 補助的な関与を認めるパターン【(一部ないし全部について)補助的関与型】
・ 引き出し行為は完全に認め、被相続人に渡したと述べるパターン【本人交付型】
請求する側としては、相手の反論前、反論後に、金銭の入出金状況の分析、払戻請求書の筆跡・本人確認欄・備考の記載の検討、被相続人の健康・認知状況の把握、金銭の管理状況等(介護認定情報、カルテ等)を主張立証していくことになります。
請求する側の主張や証拠を提示する活動を受けて、裁判所が相手方に説明を求めるのが通常の流れです。
これに対して、相手側が概括的にしか説明しないこともままあります。
たとえば、明らかに相手が被相続人の通帳から下ろしたと考えられるお金の引き出ししか認めず、その他は知らないと述べるパターンです。被相続人宅から遠く離れた金融機関やATMで下ろした取引しか認めず他は全てお金の引き出しを否定するなどの対応です。
お金の引き出し行為をしたのか否かについて、裁判上、事実として認められるか否かについては、裁判所として引出行為当時の事情だけでなく、訴訟における被告(相手)側の対応の仕方も(弁論の全趣旨として)考慮して判断することになります。
ただし、被告(相手側)が不誠実な対応を繰り返すからといって、お金の引き出しに関して裁判所が事実として認めてくれることに過度の期待は禁物です。
地道に証拠を集め、立証を積み上げていくことが、やはり重要となります。
4 さいごに
今回は、「使途不明金問題」を相手に請求するにあたっては、多くの問題があり、その問題の一部をご紹介させていただきました。
被相続人の預貯金からどこにいったかわからない多額のお金があって疑問を持っているなど「使途不明金問題」について関心がおありの方は、相続に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。