遺留分侵害額請求への生前対策 【第3回】 (対策4 生命保険金の利用)
1 はじめに 2 相続税と「生命保険」 3 「受取人指定のある生命保険」は「遺留分」の対象となる財産とならないこと(原則的な取扱い) 4 受取人指定がしてある生命保険が遺留分の対象となる場合【注意点】 5 受取人指定がしてある生命保険が遺留分の対象となる具体的なケース 6 さいごに
1 はじめに
今回は「遺留分侵害額請求」に対し、生前に何らかの対策ができないかについて、第3回目の説明をさせていただきます。
「この相続人には絶対渡したくない、できるだけ少なくしたい」などのご希望を持たれる方も一定数いらっしゃいます。たとえば、不良的な行為をしてきた子、財産を散逸する子などに財産を渡したくないというのも理解ができるところです。
そのため、そうしたご希望に添った対策も必要となってきます。
業務上、遺言だけで終わっているケースが圧倒的に多いのですが、生命保険を利用した「遺留分の対策」もよくみかけますので、注意点とともにご紹介をさせていただきます。
2 相続税と「生命保険」
<相続税の対象となること>
「生命保険」は、相続税の課税対象となります(相続人が受取人の場合、非課税枠あり。 500万円 × 法定相続人の数 = 非課税限度額。)。
※ 「被相続人の死亡によって取得した生命保険金や損害保険金(偶然な事故に基因する死亡に伴い支払われるものに限られます。)で、その保険料の全部または一部を被相続人が負担していたものは、相続等により取得したとみなされて、相続税の課税対象となります。」(国税庁HP)
3 「受取人指定のある生命保険」は「遺留分」の対象となる財産とならないこと(原則的な取扱い)
<民法上、遺留分対策を考える場面では>
「受取人指定がある生命保険」は、原則として、遺留分算定の基礎財産には該当しません。
(生命保険金は、その指定受取人が保険契約から生ずる固有の権利として生命保険金請求権を取得するもので、受取人固有の財産であると考えられているからです。 参照・最判平成16年10月29日決定)
4 受取人指定がしてある生命保険が遺留分の対象となる場合【注意点】
最判平成16年10月29日決定でも、例外的に、受取人指定がしてある生命保険が遺留分の対象となる場合があると述べています。
保険金受取人である相続人と他の相続人との間に生じる不公平が到底是認できないほど著しい場合には、受取人指定のある生命保険金も遺留分算定の基礎財産になることがあります。
5 受取人指定がしてある生命保険が遺留分の対象となる具体的なケース
最判平成16年10月29日決定は、以下のように述べています。
「保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権は,民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないが,保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率,保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して,保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,特別受益に準じて持戻しの対象となる。」
つまり、ポイントは、「保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率,保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮」となります。
「総合考慮」と最高裁は述べていますが、よく問題となるのは、「保険金の額と遺産の総額に対する比率」です。これについては、総財産と同額程度のケースで受取人指定のある保険金を相続財産に含めた裁判例もあります(東京高裁平成17年10月27日決定)。
6 さいごに
遺留分対策では、まずは、遺言により相続させる者を決めておくこと、そして、遺留分侵害額請求をされた際の準備資金として受取人指定をした生命保険の払戻し金を利用することが遺留分対策をするのが有効的な対策と考えられます。