遺留分侵害額請求への生前対策 【第2回】 (対策3 養子縁組をどう考えればよいか。)
1 はじめに
今回は「遺留分侵害額請求」に対し、生前に何らかの対策ができないかについて、第2回目の説明をさせていただきます。
ご自身の財産を、「この相続人には絶対渡したくない、できるだけ少なくしたい」などのご希望を持たれる方も一定数いらっしゃいます。たとえば、不良的な行為をしてきた子、財産を散逸する子などに財産を渡したくないというのも理解ができるところです。
そのため、そうしたご希望に添った対策も必要となってきます。
ところで、ご相談者の方とお話しをしていると、「遺留分の対策に養子縁組の利用はどうだろうか?」とご相談いただくこともあります。
そこで今回は、「遺留分」と「養子縁組」についてご紹介をさせていただきます。
2 「相続税」と「養子縁組」
<相続税ついて考える場面では>
養子縁組は、相続税法上、法定相続人として算入される養子の数に制限があります。相続税法では、
「⑴ 被相続人に実の子供がいる場合
→ 養子は1人までです。
⑵ 被相続人に実の子供がいない場合
→ 養子は2人までです。
ただし、養子の数を法定相続人の数に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合、その原因となる養子の数は、上記(1)または(2)の養子の数に含めることはできません。」<国税庁HP(タックスアンサー)より抜粋>
3 「遺留分」と「養子縁組」
<民法上、遺留分対策を考える場面では>
上記の相続税とは異なり、遺留分が認められる養子の人数に制限はありません。
そのため、相続をさせたくない方の遺留分割合を少しでも少なくしたい場合、養子縁組により、法定相続人を増やすという方法があります。
<例>
「相続人に長男と次男がいる場合、で長男家にできるだけ相続をさせたい」場合
→ たとえば、長男家の長男妻や長男の子と養子縁組する方法で、次男が請求する「遺留分侵害額」を減らすという方法があります。
(養子と実子に、相続分も遺留分も割合は同じです。)
4 養子縁組により遺留分対策をする際の<注意点1>
<注意点1> 養子も遺留分権利者となるため、その養子からも遺留分侵害額請求をされる可能性があります。
上記の例で、長男に全て相続させる遺言を作成していたとしましょう。
たとえば、被相続人の生前、認知症になってしまうと、長男とその配偶者(妻)が離婚をしても養子縁組の離縁を認めることが困難です。その配偶者(妻)から遺留分侵害額請求をされる可能性は十分にあります。
5 養子縁組により遺留分対策をする際の<注意点2>
<注意点2> 養子縁組無効(民法802条)の可能性はあること
また、養子縁組の届出をしても、「当事者間に縁組をする意思がない」ときは、養子縁組は無効になります(民法802条)。
「当事者間に縁組をする意思がない」と主張され、養子縁組が無効と判断されてしまう可能性があります。
これに関連してお役立ち情報:「相続税対策としての養子縁組の有効性」では、最高裁平成29年1月31日判決から、節税対策のために養子縁組をしてもただちに縁組の無効が認められないことはご紹介をさせていただきました。
この最高裁判決から考えると、遺留分対策のために養子縁組をした場合においても、ただちに養子縁組が無効となるわけではないと考えられます。
しかしながら、事情によっては、当事者間に縁組意思がないとして、養子縁組を無効とされる可能性があることに注意が必要です。
6 さいごに
「(ある相続人には)遺留分を渡したくない」という要望があり、生前から遺留分対策をしておきたいということにご関心がおありの方は、相続に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。