相続税対策としての養子縁組の有効性

文責:弁護士 岡﨑伸哉

作成日:2024年06月29日

1 はじめに

 今回は、相続税の節税対策として、もっぱら養子縁組をした事例について、その養子縁組が有効か否かをめぐる事案(平成29年1月31日、最高裁第三小法廷判決)をご紹介いたします。

 

 「遺留分侵害額請求」に対し、生前に何らかの対策ができないか:第2回目「遺留分侵害額請求への生前対策(対策3 養子縁組をどう考えればよいか。)」にも参考となる判決です。

2 最高裁判決の裁判要旨と事案の概要

<裁判の要旨>

 専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。

 

<事案の概要>

● 長男が連れてきた税理士から、長男の息子を養子にした場合、相続税の節税効果がある旨の説明を受けた。その後、被相続人は、長男の息子(孫)と養子縁組をした。
● 被相続人と長男の関係悪化。

  孫との養子縁組を無効とする離縁届を提出。

  孫は被相続人との養子縁組の離縁を争う(裁判)。

  被相続人の死亡後に離縁無効判決が確定。

● 孫を養子にした被相続人の遺産相続をめぐり、他の姉妹が養子縁組の無効確認訴訟を提起。

● 第二審(東京高裁)は、『本件養子縁組は専ら相続税の節税のためにされたものであるとした上で、かかる場合は民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとして、被上告人ら(姉妹)の請求を認容した。』

3 判決の内容

上記の最高裁判決は、判決内で以下のように述べています。

 

 『養子縁組は、嫡出親子関係を創設するものであり、養子は養親の相続人となるところ、養子縁組をすることによる相続税の節税効果は、相続人の数が増加すること に伴い、遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。 そして、前記事実関係の下においては、本件養子縁組について、縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく、「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。』

4 上記最高裁判決についての考察

⑴ 今回、問題となったのは、養子縁組の無効について定めた(民法802条)の「当事者間に縁組をする意思がないとき」にあたるか否かです。
  「縁組をする意思」は、
  ・ 縁組の「届出意思」(実際に縁組の届け出を役所にする意思)

  ・ 真に養親子関係の設定を欲する意思(実体的意思)

  が必要とされています。

 

⑵ 今回の判決では、

  ① 相続税の節税のために養子縁組をすることは、節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものだ。

  ② 「相続税の節税の動機」と「縁組をする意思」とは、併存し得るものである。
 (養子縁組に相続税節税の動機があっても、それは、養子縁組関係を設定する意思を廃除せず、併存する。)

という理由で、民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできないとしたのです。

   ↓ [この判決から考えられること]

 養子縁組無効を争う場面では、「養子縁組が専ら相続税の節税のためであった」とだけ主張しても縁組の無効は認められないといえます。

 

 ※ 他に「当事者間に縁組をする意思がない」ことを主張・立証しなければいけません。

 本判決からいえることは、財産目的、節税目的で養子縁組をしたなどの場合でも、養子縁組は無効とならず、縁組が無効となるのは限定的になることを示唆しているといえます。

5 さいごに

 相続に関係し、他の相続人に関して養子縁組の無効を争いたい場面は、たしかにあります。

 こうした場合においても、相続に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。

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