「相続放棄」と「相続分の放棄」について

文責:弁護士 岡﨑伸哉

作成日:2024年05月29日

1 はじめに

 「相続放棄(民法915条1項)」と混乱が生じやすいものとして「相続分の放棄」というものがあります。

 遺産分割調停の相手方となったとき、家庭裁判所から送られてくる封書の中に、「相続分の放棄」「相続分の譲渡」についての書面も含まれていることがあります。

 今回は、間違いやすい「相続放棄」「相続分の放棄」について説明をさせていただきます。

 

2 「相続放棄」の概略

 「相続放棄(民法915条1項)」:相続人が、自己のために相続の開始があつたことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所に対して放棄の申述をしなければならないものです。 

 その効果としては、対象の相続について、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。

 そのため、預貯金・不動産などプラスの財産、借金などの負債も全て相続をしません。

 このように、「相続放棄」は、法によって定められ、最初から相続人ではなくなるというひじょうに強力な効果があるものです。

3 「相続分の放棄」の概略

⑴ まず、「相続分の放棄」は、法による明文の規定はありません。

 

⑵ 「相続分の放棄」は、相続開始時から遺産分割までの間であればいつでもおこなうことが可能です。また、その手続きの方式も問わないとされています。

  

  「相続分の放棄」がなされる場面は、遺産分割調停・審判の場面のことが多く、その際には実務上、署名、実印での捺印及び印鑑登録証明書の提出が求められます。

  手続き方式が特にないということであっても、放棄の意思を示したことを明らかにするため、内容証明郵便で、「相続分の放棄」の意思を示すこともあります。

  

⑶ 「相続放棄」と異なり、「相続分の放棄」をおこなっても相続債務の支払い義務は法定相続分に基づいて負うことになります。「相続分の放棄」を行なっても、法律的には相続人という地位は維持されたままだからです。

  この点は要注意です。

  「相続分の放棄」は、相続手続きに関わりになりたくない方から、その意思を示されることが多いのですが、相続債務の支払い義務があるということは債権者から請求される可能性があるわけです。

4 「相続放棄」と「相続分の放棄」におけるその他の相続人への影響

 「相続放棄」「相続分の放棄」とは、以上のような違いがあるのですが、他の相続人に与える影響も異なります。

 

 <事例 父親が亡くなり、母親と子2人(長男・次男)が相続人だった場合>

● 法定相続分は、母親1/2  長男1/4 次男1/4 です。

 

● 「相続放棄」の場合:次男が相続放棄をしたケース

   相続放棄をした場合、初めから相続人とならなかったとみなされますので、

      → 「母親1/2  長男1/2」 となります。

 

● 「相続分の放棄」の場合:次男が相続分の放棄をしたケース

   子のうちの1人が相続分の放棄をした場合、その相続分(1/4)を「残された相続人の相続分率」に応じて分配されます。

   具体的な計算は、

   母親と長男の相続分比率は、1/2:1/4=2:1

   母親:1/2+1/4×2/3=2/3

   長男:1/4+1/4×1/3=1/3

  → 「母親2/3  長男1/3」 となります。

4 さいごに

 家庭裁判所から「相続分の放棄」について案内がいきなり来た場合、「相続放棄」と勘違いされる方もいらっしゃいます。

 こうした案件でお困りであれば、相続案件にも慣れた弁護士にご相談だけでもご検討されることをオススメいたします。

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