自筆証書遺言(押印に関する裁判例①)
1 はじめに
先日、法制審議会第199回会議(令和6年2月15日開催)において、遺言制度の見直しに関する諮問があったことがニュースになりました。
自筆証書遺言の自筆をしなくてよい部分の範囲の拡大がテーマの一つとなっています(法改正がされるかは未定)。
全文自書(現在は、不動産の目録など一部ワープロでの作成も可。)をすることが作成者にとって負担であることから遺言制度の見直しについて協議を進めるようです。
今回は、「自筆証書遺言」について、裁判例も踏まえながらご紹介をさせていただきます。
2 「押印」を欠く自書の有効性
⑴ 民法968条1項では、「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」と定められています(同条2項に自書の例外あり。)。
⑵ では、「自筆証書遺言」に押印がない場合、その遺言の有効性はどうなるのでしょうか。
① 押印が全くない事例
遺言の本文に印章による押印ではなく、花押(自署の代わりに用いられる記号もしくは符合)があった事例について、最高裁判所は、印章による押印とは認めず、遺言の効力を否定しています(最高裁平成28年6月3日判決)。
※ 押印がない場合、一切、裁判所は遺言の効力を認めないのでしょうか。いくつかの例外を認めています。
② 何らかの押印がある事例
●遺言書の本文に押印がなくても、「遺言書本文の入れられた封筒の封じ名にされた押印」で、民法968条1項の「押印」として認めています(最高裁平成6年6月24日判決)。
●遺言書の本文に押印がなくても、数枚にわたる遺言書の契印をもって、民法968条1項の押印として認めた裁判例もあります(東京地裁平成28年3月25日判決)。
※ このように、遺言書本文に押印がなくとも、封筒に押印があれば、押印としての用件を認めています(契印は裁判例。)。
かなりの例外的な事例として以下のようなものもあります。
③ 遺言書も含め全く押印がない事例
日本帰化の白系ロシア人の方が英文で遺言書を作成し、ほとんど日本語を話さず、日常生活もヨーロッパ形式でコミュニケーションもヨーロッパ人中心だったケースで、押印がなくても遺言を有効としました(最高裁昭和49年12月24日)。
※ 重複しますが、かなり例外的な事例といえます。
ただ、移民の方が増えてきている現代の日本において、こういったケースもありえるため一考の余地はあります。
3 指印による押印の有効性
「自筆証書遺言」に印鑑による印章ではなく、指印によって押印がなされている場合、その遺言の有効性はどのようになるのでしょうか。
この点、下級審では否定的な判断(指印では民法968条1項の押印とは認めない)もなされていました。
しかしながら、「民法968条1項にいう押印としては、遺言者が押印に代えて拇印その他の指頭に、朱肉等をつけて押捺をすることをもって足りる。」(最高裁平成元年6月20日判決他)と判断がなされ、指印による押印も有効とされています。
4 さいごに
遺言は故人の意思でもありますが、その形式を間違うことで遺言の有効性が否定されることもあります。
こうした案件でご相談がありましたら、遺言の作成など相続案件にも慣れた弁護士にご相談をされることをオススメいたします。