遺言の基本的な書き方(『特別受益』を意識した遺言)
1 はじめに
遺産分割のご相談を受けていますと、たとえば、被相続人であるお父様がお亡くなりになられた際、法定相続人の兄弟間で「兄は父から生前にお金を借りているが返していない。それを遺産分割で考慮してほしい。」といったご相談を受けることがあります。
こうしたケースで紛争を激化させないように、被相続人であるお父様が生前の「遺言」によって明確にしておくことで、亡くなられた後の“争続”を起こす可能性を下げることをご検討されてはいかがでしょうか。
そこで、『特別受益』を考慮した遺言の作成についてご紹介させていただきます。
2 特別受益について
『特別受益』の内容は、遺贈、及び、婚姻・養子縁組・生計の資本として生前贈与を受けたこととされています(民法903条)。
共同相続人の中に被相続人から遺贈や『特別受益』にあたる生前贈与を受けた者がいる場合には、これらの遺贈・生前贈与については相続分の前渡しとして、相続財産に加算の上、相続分を計算することも可能です(民法903条1項)。
これを、『特別受益の持ち戻し』といいます。
3 <事例>
上で述べたように、お父様が亡くなられるにあたって、以下の事例をもとにした遺言について紹介致します。
相続財産 :預貯金1000万円。
相 続 人 :被相続人の子供である兄1人と弟1人のみ。
その他事情 :被相続人(父親)から兄が500万円を借り入れていますが、全くお金を返していない。
4 「付言事項」について
遺言書の中には、遺言事項(遺言できる行為)以外のことも記載ができます。
これを、「付言事項」といいます。
「付言事項」自体は法的効力をもちませんが、それを遺言の中に記載しておくことで被相続人の方の想いを伝え、“争続”を防ぐことにつながります。
一方で、しっかりとした「付言事項」を書いておかなければ、逆に相続開始後に問題が生じることもあります。
5 「付言事項」を用いた『特別受益』の記載について
<遺言内・「付言事項」の例>
「遺言者は、長男Aに対し、平成29年2月、その生活のため、金500万円を貸与したが、長男Aは一切その貸金の返済をしない。そこで、遺言者は、長男Aに対する上記貸金500万円を免除するが、これを長男Aに対する特別受益とし、長男Aには、金250万円しか相続させないものとした。」
「付言事項」自体には、法的効力はありません。
しかしながら、遺言者自身が遺言書に『特別受益』の手がかりを残しておくことで、後日の紛争を事前に予防することにつながることもありえます。
特に親子の場合、借用書を作成しておらず何の手がかりもないことが多いため、手がかりの有無が相手方に対しての最初の主張をする際に重要になってきます。
なお、生活費貸与の債務免除は『特別受益』にあたるとされています。
6 さいごに
「遺言」の作成について、その内容には色々なパターンがあり、今後もご紹介をさせていただく予定です。
「遺言」の内容次第で“争続”を予防する効果も期待できます。
遺言書の作成にあたり、相続に詳しい弁護士にご相談をされることをオススメいたします。