空き家問題の解決(相続放棄と空き家問題)
1 はじめに(空き家問題)
空き家については、平成30年住宅・土地統計調査の結果、空き家数は848万9千戸と過去最多となり、全国の住宅の13.6%を占めていることが分かっています。
少子高齢化の進展や人口移動の変化などを背景に、増加の一途をたどっており、管理が行き届いていない空き家は今後も増えていくことが予測されています。
私自身、以前は、広島県三次市内で弁護士業務をしていたことから、空き家問題にはよく直面をしてきました(参考・三次市「空き家バンク制度」)。
特に多かったのが、遺産分割協議の際、実家の家・田畑・山林は受け取りたくないが、現金・預貯金は欲しいというものです。
実家の家・田畑・山林は不要なので、現金・預貯金も一切相続したくないという方も多かったです。
こういった”負動産”問題は、少子高齢化・人口減少・都市部への一極集中とともに顕著になってきています。
こうした“空き家問題”について、相続放棄が有効な一つの手段となるため、注意点も含め、紹介をしたいと思います。
2 相続放棄と空き家の保存義務
「田舎の家や田畑は、とても管理ができないので相続放棄をしたい。」とのご相談はよく受けます。
相続放棄により、その相続に関しては相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。
しかしながら、相続放棄をした者は、その放棄によって、相続人となる人に対して相続財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をして、財産の管理をしなければならない義務を負ってしまいます(民法940条1項)。
例えば、お父さんが亡くなり、お父さん名義の家があります。相続人はお子さんの場合、相続放棄をしたことによって、次の相続人になる方(お父さんの兄弟など)に引き継ぐまでの間、不動産の管理をしなければならないわけです。
この民法940条1項の規定は、以下のように改正され、令和5年4月1日から施行されています。
「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第952条第1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」となります。
また、相続財産である不動産(空き家等)が損壊をして、第三者に損害を与えた場合には、この損害を賠償しなければならない可能性もあります。
3 相続放棄後の相続財産清算人選任申立て
誰も不動産を相続をしたくない場合、相続人が皆で相続放棄をすることが有用になります。
その場合、相続財産は、法人となります(民法951条)。
相続財産を管理、換価、債権者への支払い、国への財産の引き継ぎをするためにも相続財産清算人の選任申立てを家庭裁判所にすることになりますが、多くの場合、その相続財産清算人選任申立てをせず放置している案件があるのも事実です。
申立てのネックとなっているのが、相続財産清算人選任申立ての際に、家庭裁判所に納付する予納金の額です。
事案や地域によって異なりますが、予納金は30万円から100万円(場合によってそれ以上)といわれます。
この予納金は相続財産の中から出すのではなく、相続財産清算人の申立人が用意することになりますので、申立てを躊躇される方が多いのも事実です。
4 生前から相続放棄に備えることの重要性
ここで重要なのが、空き家になりそうな物件、空き家が既にある物件については、その所有者が存命中に対策を取っておくことが必要だと思います。
⑴ まず、所有者のご存命中に、当該不動産などを処分することができないか。
ご本人が当該不動産に居住する必要がいつまであるのか。
施設に入所した場合、当該物件を誰がどのように処分をするか。
ご本人と相続人で事前にしっかりと話し合いをしておくことです。
⑵ また、ご本人ご存命中に不動産の処分が難しいということであれば、本人と相続人で話し合
いをし、不動産を相続する人の選別、相続人全員が相続放棄をする場合には、相続財産清算人
選任の申立てを、誰が、誰の費用で行なうかを話し合っておくことです。
5 さいごに
空き家問題については、不動産の所有者の方がご存命中、ご本人がある程度の道筋を立てておくこと、周りの親族が少しずつでもサポートをしてあげることが重要だと思います。
少しでも気になる場合には、相続放棄、相続財産清算人選任申立てにも詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。