相続放棄と賃貸物件の契約解除と片付け
1 はじめに
内閣府の「令和4年版高齢社会白書」によると、一人暮らしの高齢者(65歳以上)数は年々増加し、2020年には約670万人にまで増加しています。
一人暮らしの高齢者の方の中には、賃貸アパートを借りて一人で住んでいる方も多く、そうした独居の方について相続が発生することがあります。
では、「相続放棄をした場合に、賃貸借契約の終了や部屋の中の物品の片付けをどうすればいいのでしょうか?」とのご相談をよく受けます。
令和3年民法改正により、これまで曖昧だった「相続放棄をした者の責任」について、より明確な規定に変わります。
新しいルールの適用開始時期(施行時期)は、2023年(令和5)年4月1日ですが、改正点を踏まえて述べさせていただきます。
2 賃貸物件内の物の管理責任
2023年(令和5年)4月1日に適用開始となる民法940条1項は、「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第952条第1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」となります。
重要なのは、相続放棄者の方が、
① 相続放棄の時に現に占有している相続財産について、
② 相続人に対して当該財産を引き渡すまでの間、
③ その財産を自己の財産におけるのと同一の注意をもって保存しなければならない。
そのため、例えば、亡くなった方のお子さんが相続放棄されるときに、亡くなった方と一緒の賃貸物件に住んでいたり、その物件の中の動産を占有していなければ、民法940条の責任を負わないことになります。
本条の改正前は、相続の放棄をした者は一律に管理責任を継続して負うものと規定しています。
改正法では「相続財産に属する財産を現に占有している相続放棄者」だけに責任を継続して負わせることにし、占有をしている人は、相続財産をしっかり保管・保存をして、次の順位の相続人や相続財産管理人に引き継いでくださいということになりました。
3 相続放棄をした場合、賃貸人の方に対してどのように対応をするのか。
「相続放棄をした場合の賃貸借契約の終了や部屋の中の物品の片付け」については、相続放棄をするのであれば、単純承認にあたる可能性があるため、賃貸借契約の解除に対応することは避けることになります。
また、賃貸物件の部屋の中の片付けについては、相続人の方が賃貸物件に一緒に住んだりするなどして賃貸物件内の財産を占有していなければ、民法940条の義務を負わないことになります。
全ての相続人が相続放棄をし、相続財産管理人が選任されない場合、物件の片付けや契約の終了について、大家さん(賃貸人)の方で、法的な対応せざるをえなくなるのが実情です。
4 さいごに
相続放棄のご相談される際には、大家さんへの対応にご不安を感じることもあると思われます。
相続に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。