空き家問題の解決(相続放棄と相続土地国家帰属制度)

文責:弁護士 岡﨑 伸哉

最終更新日:2023年01月31日

1 はじめに

   前回の記事で、『相続放棄・相続財産管理人の選任申立て』に関連し、“空き家問題”についても、述べさせていただきました(前回記事・「空き家問題の解決(相続放棄と空き家問題)」)。

   “空き家問題”については、相続放棄が有効な一つの手段となるのですが、相続財産管理人選任申立てへの予納金がかかることなど、一定の負担がかかるのも事実です。

   そこで、相続後に“空き家問題”に対する有効な手段がないか、令和5年4月27日にスタートする『相続土地国庫帰属制度』も踏まえ、述べさせていただきます。

2 自治体への不動産の寄付は可能か

 「田舎の家や田畑は、とても管理ができないので自治体などに寄付をしたい。」というのも、ご相談を受けている中で、よくいただくお話しです。

● 国への寄付

  国への寄付は、行政目的で使用する予定がない限り、受け入れは困難です(寄付とは違いますが、『相続土地国庫帰属制度』がありますので後述致します。)。

● 地方自治体への寄付

  地方自治体においても、不動産の寄付の受け入れは困難です。

  当該不動産が、開発予定地など行政目的がある場合には、受け入れることがあるとの話は、以前聞いたことがあります。

  地方自治体の中には、不動産寄付の受け入れの条件を緩和し、老巧危険空き家の寄付を受け付けている自治体もあります。

  たとえば、長崎市では、老巧危険空き家対策事業として、寄付を受け付けているようです。

  対象不動産のある自治体に「空き家対策事業」の制度が何かないか、問い合わせてみるのもいいと思います。

3 相続土地国庫帰属制度

 以上のように、国・地方自治体への不動産の寄付は、現状困難です。

 そこで、令和5年4月27日スタートする相続土地国庫帰属制度も検討してみたいと思います。

『相続土地国家帰属制度』を利用する条件ですが、

⑴ この制度を利用できるのは、「相続や遺言で土地を取得した相続人」の方になります。

生前贈与や売買で取得された方ご自身は、この制度を利用できません。

⑵ 対象となるのは、国の審査に合格した土地のみになります。

  たとえば、以下の土地は、この制度の対象となりません。

       ① 建物がある土地(更地だけが対象)

   ② 担保権や賃借権等がある土地

   ③ 地元住民等が利用する土地(通路、墓地等)

   ④ 土壌汚染地

   ⑤ 境界不明地等の権利関係が曖昧な土地

  結構、厳しい条件になってます。

  その他に事案ごとに審査に合格するか否かが判断されることになります。

  特に、空き家問題の場合、更地にするため、建物を壊す費用がかかります。

    また、制度の利用にあたっては、審査手数料のほか、10年分の管理費用について負担金をしなければなりません。

4 相続放棄と相続土地国家帰属制度

 空き家がある場合について『相続放棄+相続財産管理人選任申立て』と『相続土地国家帰属制度』を比較してみましょう。

● 相続放棄+相続財産管理人選任申立ての場合:相続放棄にかかる費用や相続財産管理人選任申立てにかかる費用を用立てることになります。

  利用するにあたって、土地の種目(宅地、田、山林など)・形状の影響を受けにくいといえます。

  建物・土地、その他財産全てを手放すことになります。

● 相続土地国家帰属制度の場合:建物を壊して更地にし、審査手数料と10年分の管理費用の負担金を納付しなければなりません。建物を壊す費用は、ある程度お金がかかってしまいます。

  土地の種目・形状によっては、制度の利用が難しい場合があります(たとえば、崖の場合など。)。

  相続財産のうち、一部の土地を手放すことが可能になります。

   

 上記は簡単な比較になります。

 ケースによっては、相続土地国家帰属制度の方が利用しやすいとは思います(相続した土地の一部を売却もできないので手放したい場合など。)。

 現時点では、トータルの費用面で「相続放棄+相続財産管理人選任申立て」の方が費用を抑えられることが多いと思われます。

   また、「相続放棄+相続財産管理人選任申立て」の方が、土地の種目・形状の影響を受けにくいといえます。

   そこで、まずはどちらの制度、その他の方法をとるのか専門家を交えて検討されるのがよいと思われます。

5 さいごに

 繰り返しになりますが、たとえば、空き家になりそうな不動産については、不動産の所有者の方がご存命中に、ご本人と周りの親族が少しずつでも対策を検討しておくことが重要だと思います。

 少しでも気になる場合には、『相続放棄』『相続財産管理人選任申立て』『相続土地国家帰属制度』にも詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。

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